
日本酒蔵 芙蓉(ふよう)酒造 依田 昂憲(よだ・たかのり)さん初挑戦となるクラフトジン開発には、強力なジンのプロフェッショナルがアドバイザーとして伴走してくれている。ジンラバーズ向けのアプリ「JUNIPER (iOS / Android) 」の運営や日本初のジン・フェスティバル「ジンフェスティバル東京」を主宰する三浦 武明(みうら・たけあき)さんだ。日本のクラフトジンブームの火付け役ともいえる三浦さんが、2020年夏のプロジェクト立ち上げ当初から依田さんに根気強く伝えてきたことは、”ジン”との向き合い方だった。
11月27日に行われた「YOHAKHU(よはく)」の試作品テイスティングイベントのレポート前編では三浦さんから受けた最終フィードバックから、どのような思いで本番の蒸留に挑むこととなったか。依田さんの思いを伺った。
テイスティングの会場は、三浦さんがオーナーを務める世界各国の料理とともに700種類以上のクラフトジンを愉しめるレストラン「TOKYO FAMILY RESTAURANT(東京都渋谷区)」。
-------この記事に出てくる人-------
依田 昂憲(よだ・たかのり)さん
長野県佐久市にある130年以上の歴史をもつ日本酒蔵 芙蓉(ふよう)酒造の6代目。クラフトジンのつくり手。
三浦 武明(みうら・たけあき)
アジア最大級のジンの祭典「ジンフェスティバル東京」を主催、日本におけるクラフトジンのムーブメントを牽引。「YOHAKHU」開発のアドバイザー。
ジンづくりにおいて、道を示してくれる存在。定石を捉えつつ、個性を表現する葛藤の中で
この日までに何度もフィードバックを受けてきた依田さんは、三浦さんの言葉を真っ直ぐに受け止め自身の中で咀嚼し、体得しようと努めてきた。これまでの自身の姿勢や頭を抱えてきた“香りの設計”について依田さんは次のように語った。
「新しい挑戦なんで、第一線で活躍されている三浦さんの意見は真摯に受け止めています。ダメだといわれたらダメだろうって。すごく勉強になっています。これまで僕は、日本酒や焼酎づくりにおいて“味わいの設計”を重視してきました。これに対して、三浦さんから教わり続けてきたのはジンは“香りの設計”だということでした。
“香りの設計”というのを三浦さんはいつも音楽で例えてくれるんです。例えば、最初に香ってくる華やかなジュニパーベリーがボーカルだとすると、他のボタニカルをギターやベース、ドラムとしてどう支えてくれるかということ。例えば、ギターが5本あるバンドがあっても面白いけれど、音が増えれば増えるほど組み合わせって難しいですよね。逆にジュニパーベリーだけなら、音程としてはアカペラのように全体がスカスカになってしまうということです」(依田さん)
この日までに、「YOHAKHU」には芙蓉酒造の長い歴史が宿った粕取焼酎をベーススピリッツに、長野で採取したジュニパーベリーをはじめクロモジやリンゴ、クマザサといったボタニカルを使用することが決まってきた。この後はコリアンダーやリコリス、アンジェリカルート、カルダモンといった素材を香りの視点で引き算していく作業となる。
「どんなジンにも個性があり、多様性が求められている時代だから、なにが良いとか悪いとかではない」というのが三浦さんのスタンス。三浦さんは、これまでも商品としての方向性は示してこなかった。ただあくまでも、「ジンとはどんな酒なのか?」という在り方を依田さんに伝えながらも、長野県佐久市らしさ、そして蔵元である依田さんにしかつくれないつくれないジンを共に追求してくれた。
最終フィードバックのために依田さんが手渡した蒸留したての試作品。今回は新たにクローヴを足し、リンゴとカルダモンの香りとの繋がりとして、重い甘さをいれるという試みだという。
三浦さんはいつもストレートのジンだけではなく、氷やトニックを入れた際の変化をじっくりと知覚したうえで言語化してくれる。緊張した面持ちで三浦さんの言葉を待つ依田さん。三浦さんは一言目に、「何かを足す前に引かないと、迷路から抜けられないよ」と伝えた。
「今回足したクローヴがリンゴの邪魔してしまっているよね。クローヴっぽさを出そうと思うところに、クロモジがはいってきてユニゾンで同じメロディを弾きはじめているような……。ズンと重くなり過ぎてしまっているっていうところもあるかもしれないね。料理でもそうだけれど、最低限の量で、香りの骨格で表現しバランスをとるんだよね」(三浦さん)
そして、具体的なアドバイスの他にも「もしかしたら依田くんの中にあるものを僕がキャッチできていないこともあるかもしれないけれど……」と依田さんの表現しようとするジンは何か、三浦さんは探っているようだった。
そもそも依田さんがプロジェクト立ち上げ当初に表現しようとしたのは「長野の風景とつながるジン」だ。試作を繰り返し三浦さんとのディスカッションを重ねてきた濃い数ヶ月。主たるボタニカルが決まり完成を間近に現時点での迷いも正直に語ってくれた。
「ジンという何百年もある文化をリスペクトしつつも、どうやって地域性や独自の路線を追求していくことが世界に通用するものなのか。そもそも、世界に寄せるのがいいのか。ジンは知れば知るほど三浦さんがいうように、多種多様なんですよね。だからこそ自分のなかにある信念だとか、(長野をイメージさせる)素材だとか……。固まったものがないと本当に永久に迷路から出られないような気がして。
日本酒や焼酎づくりを学べる機関は国内にいくつもありますが、ジンはないですよね。テイスティングひとつとっても普段つくっている日本酒とは探るものが違うんです。
だから三浦さんがこうやって具体的な言葉できちんと返していただけるのは本当にありがたいですよ。多分ひとりでつくっていたら、ある程度のところまでいったら自己満足の世界で終わっていた。いつでも客観視してくれる、今ではコンパスみたいな存在ですね」(依田さん)。
実は「YOHAKHU」のネーミングも三浦さんの言葉から影響を受けた。
ジンはジンだけでは存在しない。ある時はトニックをいれ、ある時はバーマンがオリジナルカクテルをつくるためのベースとなる。そこで初めて完成形になるような“余白”を残す必要があるというのは、三浦さんから教わったことだったと依田さんは語る。「ジンとはどういう酒なのか」。約半年以上にわたるやりとりのなかで依田さんは、その答えを掴みかけていた。
そして今、三浦さんから教わったジンの「余白」という概念や定石を理解しつつも、完成まであと1ヶ月の間で、依田さんが行うべきことがあった。
「はじめての試作品には、僕の個性が詰まっていたんです。要は、“余白”がない状態だった。ここまでの間でだいぶ削ぎ落とされましたが、残りの少ない時間で、自分なりのエッセンスを再度加えてどこまでオリジナリティをだすのか。パッケージやプロモーションツールといった世界観も含め、そういった調整が必要かなと思います」(依田さん)
※ 後編に続く
----from JUNIPER 探求者募集----
fromJUNIPERとは、130年以上の歴史を持つ日本酒蔵「芙蓉(ふよう)酒造」とともに、長野県や佐久エリアの地形、歴史、里山、生き物、植生(ボタニカル)を探究し、“風景とつながるジン”の開発を目指すコミュニティです。
詳細はこちら▷▷“from JUNIPER” クラフトジン 探究者募集!長野から世界へ
探求レポートはこちら▷▷
《探求イベントレポート#01》大地の力と人の営みが生み出した、佐久の風景を知る
《探求イベントレポート#02》イヌワシが教えてくれる、自然の中で生かされているということ。