
※この記事はグリフィスさんの取り組みを応援する気持ちを込めて無料公開とします。お友だちなどに共有していただければ幸いです。
写真:昨年11月に名古屋・鶴舞公園で行われたアート作品としてのパレード。コロナが終わり、マーロンさん(後ろ向きに歩いている迷彩服姿の男性)が本領を発揮しています。(MAS NAGOYA提供)
アフターコロナ。集まることの必然性が求められる時代に
コロナ禍がほぼ過去のことになり、人間という動物は「集合」が大好きなのだと肌で感じる。人が多い都会の中でも特に密集しているエリアにあえて行きたくなったり、お互いの体が邪魔になるぐらい混雑した酒場を好んだりするからだ。我々の本能は「集まると安心する」とセットされているのかもしれない。
一方で、コロナでオンライン化が急速かつ半強制的に普及。会議や情報交換はZoomとメールで十分だしはるかに効率が良い、と大多数の人が知ってしまった。会社員の在宅勤務は珍しくなくなり、ライターの僕もインタビュー取材や打ち合わせの7割ぐらいをオンラインで済ませている。コロナ前にはもう戻らないだろう。
では、なぜわざわざ顔を合わせて肩を寄せ合いたくなるのか。「その場で自分も他人も嬉しいから」に他ならない。移動や集合に時間と身体を使うことの必然性がより求められる時代になったとも言える。
僕もパレードの一員に。背中と両足に羽をつけてもらい、孔雀になった気分です。
みんなで準備する「祭」をアートに昇華させ、世界各地で開催する
名古屋の公園でのパレード作品への参加を誘われたのはそんなことを考えているタイミングだった。メールをくれたのは、現代美術アーティストのマーロン・グリフィスさんとその妻の朗子さん(前回登場の記事はこちら)。コロナ禍では洋服ブランド「KYODAI」をスタートさせたマーロンさんだが、本業はいわゆるインスタレーションで、場所や空間全体をアートとして表現している。
マーロンさんは、故郷トリニダード・トバゴの伝統的なカーニバルをアートに昇華させた作品で知られる。あいちトリエンナーレ2013での実績(『太陽のうた』)があり、2023年11月18日に開催する今回で、日本でのパレードは10年ぶり2回目となる。
本番だけでなくその制作過程への参加を呼びかけるのがマーロンさんのやり方だ。本場のトリニダード・トバゴでもパレードの衣装(マス)を準備するために「マスキャンプ」と言われるワークショップが地域ごとに開かれ、みんなで楽しく作業をしたものをデザイナー(マス・マン)がまとめていく。多様な人が交流しながら地域への理解や愛着を深めるのだ。
日本の祭もみんなでワイワイ準備するのが楽しかったりするので、基本的な機能は同じだ。マーロンさんはそんな「地域の祭」を世界各地でアート作品として創り出している。
今回のアート作品の意義を解説する太田朗子さん。公私のパートナーが力説してくれるのでマーロンさんは気を抜いた表情です。
公園で突如現れる色彩豊かなパレード。その一員になるための条件とは
今回のパレードを行うのは名古屋市の代表的な公園である鶴舞公園。マーロンさん一家が暮らす地域の象徴的な場所でもある。前回のインタビューでも「地域の人たちはこの公園にみんな何かの想いを持っている。集まるための場所でもある。だから、ここに来るたびにワクワクします」とマーロンさんは言っていた。
僕は鶴舞という地域に縁はないけれど、マーロンさんと朗子さんとはなんとなく通じ合うものを感じる。ゆるくてオープンなローカルコミュニティを作る試みにも興味がある。「定点観測」の取材がてらに参加させてもらうことにした。
パレードの一員となるためには、事前に1回は「マスキャンプ」に参加することが条件らしい。マーロンさんはパレード前日までの12日間は鶴舞公園近くのレンタルスペースで衣装を制作している。この創作活動に加わるのがマスキャンプであり、作業を手伝ってもいいし、単に遊びに行くだけでもいい。
僕は名古屋で別件があった平日の夜に訪れて、マーロンさんとスペース内で軽く立ち話をした。休日の日中は子どもから80代までがやってきて衣装作りを手伝っているという。
「マーロンは制作が本当に好きなんです。毎日ずっとここにこもって何かしています」
マーロン一家の自宅はこのスペースから徒歩数分の場所にある。朗子さんも顔を出してカーニバルの歴史や今回のパレードの意義をマーロンさんに代わって解説してくれた。
「プロジェクト名は『METAMORPHOSIS I〜都市の変容〜WHERE WATER FLOWS』 です。今回は第一部で、マーロンは三部作で完結させたいようです」
なお、こうしたプロジェクトを実行するためにはスポンサー探しは必須。今回は名古屋市の外郭団体クリエイティブ・リンク・ナゴヤの助成事業に選ばれて100万円出してもらえた。中日新聞の記者とカメラマンというキャリアがある朗子さんは、マーロンさんの活動を広報や営業など様々な面でサポートしている。
衣装を着けてみせてくれるマーロンさん。パレード本番では自分は衣装を着けず、制作と進行に徹していました。
管理ゼロだからこそインスピレーションが発揮される!?
当日は朝9時過ぎにJR鶴舞駅に着き、マーロンさんが待つレンタルスペースに向かった。すでに20人ほどが集まっていて、マーロンさんが片っ端から厚紙製のマスクと首飾りの衣装を着けている。
驚くのは参加メンバーの名簿などは用意していないこと。誰がどの衣装を着けるのかが決まっていないのだ。ボランティアとはいえ50人以上が参加するイベントで名簿管理をしないのは日本人的な感覚ではありえない。しかし、マーロンさんは淡々とした表情で「あなたはこれを着ける?」と話しかけながら嬉しそうに作業をしている。ここには管理という概念はなく、だからこそインスピレーションが発揮されるのかもしれない。臨機応変な対応なので、ドタキャンやドタ参があってもいちいち戸惑わずに済む。
衣装は黒や赤など5色ぐらいに分かれていて、マーロンさんの直感と自分の好みを合わせて決定するようだ。僕は青や紺色が自分に似合うと勝手に思っているので、鮮やかなブルーを選択。ビーズ付きの美しいマスクも気に入った。
そんな僕の様子を見ていたマーロンさんは「大きいの、着ける?」とニヤリ。マスクと首飾りだけでなく、釣竿を利用した羽のような衣装を着ける係に抜擢されたのだ。色ごとに分けられたパレードチームに1人ずつしかいない大役である。いきなり偉くなった気分がして嬉しかった。
この格好で路上にいたら、近所のマンションから車を出した若い男性から「何があるんすか?」と声をかけられました。パレードを見に来てくださいと誘えばよかったな……。
ぶっつけ本番で参加者すべてを輝かせるアートの力
パレードのスタートは鶴舞公園内の奏楽堂前。レンタルスペースから徒歩5分ほどのところにあるが、足元が見づらい衣装を着けるのでゆっくりとしか移動できない。僕の衣装は電柱などに引っかかる危険もある。他の参加者に見張ってもらいながら集合場所にヨチヨチと向かった。
スタートは11時。この時間までに総勢70名ほどが衣装を着け終えて揃ったのは奇跡だと思う。荒天時は翌日に延期する予定だったらしいが、参加者は激減してしまったはずだ。いろいろな意味で行き当たりばったりのぶっつけ本番。それでもなんとかしちゃうのがマーロンさんの才能なのかもしれない。
チームごとになんとなくまとまり、マーロンさんの指示で出発していく。我々ブルーチームは最後尾。「Where Water Flows」というテーマに沿った水色なのでオオトリを任じられたのだろう。光栄なことだ。
より素敵だと感じたのは、パレードの先頭を切るのが「車いすユーザー」の人たちだったこと。車いすには旗を立て、ゴージャスに彩られている。アートは、社会的弱者になりがちな人にスポットライトを当てて輝かせることもできるのだと知った。
マーロンさんに真っ赤な衣装を着けてもらって嬉しそうな男の子たち。強烈なアート体験ですね!
一緒にアートになることで得られる一体感。大切なのは主体性
マーロンさんのアート作品は、参加した人たちが知り合って言葉を交わし、新しいコミュニティを作っていくことを目的の一つとしている。僕の場合は同じチームの参加女性のマスクのずれを直してあげて、自分の衣装が木の枝に絡まってしまったときは他の親子参加者が助けてくれた。その程度の交流であり、誰かと親しくなったわけではない。
ただし、パレードに参加するという価値観を共有する人が集まり、1つのアートの一部になることは爽やかな一体感があった。公園に居合わせた人から写真を撮られたりしていると、「このアートは自分たちが作っているのだ」という気持ちが強まり、胸を張って笑顔でゆっくり歩くように心がけた。
パレードは1時間ほどで終了。最後にマーロンさんが朗子さんの通訳で挨拶をした。「新しい伝統の第一歩をみんなで作った」という趣旨。まさに手作りの祭だった。このパレードに参加した人とどこかで再会することがあれば、体験を振り返りながら楽しく飲み交わせる気がする。
劇場などでプロの華やかで洗練された演技を見るのは楽しい。でも、それは受け身の喜びに過ぎない。自ら演者となり、他者に注目されて喜んでもらえると誇らしさを覚える。衣装作りに参加したり、堂々と歩いたりするだけでもいいのだ。このささやかな主体性こそコミュニティの基礎であり、マーロンさんのアートの根幹なのだと思った。(了)
僕は最後尾にいたのでパレードの全貌がよく見えました。衣装を着けて木々の間を粛々と歩くだけですが、太鼓の演奏もあって祝祭感溢れるアート作品になるのです。(MAS NAGOYA提供)
参加者のみなさんの一部と記念写真。左端で遊び始めている子どもたちの後ろにいるのがマーロンさんです。中心で写らないのが控えめな彼らしいなと思いました。(MAS NAGOYA提供)