2022/12/22 08:13
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※2023年6月追記。在賀夫妻が経営する農園GoldenGreenの「旬の野菜セット定期便」を読者と共有したいと思い、無料公開記事とします。お楽しみください。

写真:何年経っても美男美女な農家夫婦を定点観測します。やはり夫婦経営のフレンチレストラン「ル・カレ」にて。

フォロアー数4600超。発信ごとに数百の「いいね」が付く地域限定ツイッターアカウント

「14年間はあっという間でした。今では移住者の後輩も増えて、農業以外でも熱くて素敵な人たちと出会えるのが嬉しいです。私は佐久穂町のことを知り尽くしているように思われているので、主に移住者のためになるような情報を見つけてツイッターで発信しています。佐久穂への恩返しのつもりです」
 ここは長野県佐久市にあるフレンチレストラン「ル・カレ」。カウンター席で一緒に夕食をいただきながら、じっくりと話してくれるのは直販農家「GoldenGreen」代表の在賀季代さんだ(前回の記事はこちら)。
 彼女のツイッターアカウントは2022年12月の段階でフォロアー数が4600を超えており、その発信には数百の「いいね」が付く。佐久穂町をはじめとする「東信エリア」のお勧め情報に徹しており、実感と愛情に溢れた写真とコメントが共感を集めているのだと思う。取り上げてもらえば、ミニコミ誌に特集されるぐらいの影響力があるはずだ。
 夫の耕平さんと僕は、彼らが佐久穂町に移住して新規就農する前からの知り合いで、今では夫婦単位での友人でありお互いが顧客という関係。すなわち、大宮家はGoldenGreenの野菜セットを毎月買わせてもらっていて、在賀家は本ウェブマガジンのメンバーだ。
 大規模な商業施設やチェーン店が普及する前は、「米屋が喫茶店で休憩し、喫茶店経営の家族はその米屋で米を買う」的な風景が当たり前だったに違いない。こうした関係は僕には心地良い。
 お互いにプロとしての矜持を持つことは必要だけど、商行為にも人間らしさのようなものが欲しいのだ。可能であれば、自分の経済活動の半分ぐらいは物々交換で成り立たせたい。自宅でGoldenGreenの野菜を食べながら妻と在賀夫妻についてあれこれ話したいし、彼らの商売に微力ながら美味しく貢献できているのは嬉しい。

こちらが季代さんのツイート例。「ほぼ食ネタ」で最近はラーメンネタが多い気がします。アカウントはこちらです。

農家はめちゃくちゃクリエイティブでカッコいい職業。できればずっと農家でいたい

 通信と物流が発達した現在は、相互依存関係を結ぶお店や個人を全国各地、場合によっては海外に求められる。長野県の東部にある佐久穂町と僕が住んでいる愛知県蒲郡市も高速道路をノンストップで走れば4時間弱しかかからない。だから、妻が運転する車で毎年GoldenGreenに遊びに行けていて、そのことも僕たちの関係を維持することに役立っていると思う。
「遠くのお客さんに野菜を送るという宅配ビジネスを維持することには不安を感じています。運賃は値上がりしていて、今期はお客さんも少し減ったからです。でも、小さな種から何カ月もかけて野菜を育てる農家はめちゃくちゃクリエイティブでカッコいい職業だと私は思っています。できればずっと農家でいたいです。私たち夫婦がこれからどうやって生きていくのかを話し合っています」
 2年前、耕平さんに代わってGoldenGreenの代表となった季代さんは近況と心境を取り繕うことなく話してくれる。外見はいつも生き生きとして美しいのだけど、真面目過ぎてネガティブになってしまいがちな内面を持っている女性だ。
 この数年は耕平さんが佐久穂町役場からの業務委託という「外の仕事」で活躍していることもあり、季代さんは内向的になりやすいのかもしれない。農園を開いた当初は耕平さんのほうがピリピリしていて、季代さんはどっしり構えていた記憶がある。夫婦というのは陰と陽を交代しながらなんとか暮らしていくものなのだと感じる。

点在するGoldenGreenの畑の一つ。愛犬ハルとの散歩でもすぐに行ける場所にあります。

42歳という「中途半端な」年齢。早く素敵なオバサンになりたい

「いま、モヤモヤしています。42歳という年齢が中途半端なのかもしれません。早く素敵なオバサンになりたいのに、特に男の人に対して勝気というか心が狭くなってしまう傾向が抜けません。男尊女卑的な言動に接するとケンカしそうになります(笑)。大人げないな、と我ながら思います。こんな弱気になっている時期に取材をお受けするのは大宮さんだからですよ」
 僕へのサービストークを入れながらも、季代さんはネガティブモードを隠さない。確かに年齢的なものがあるのかもしれない。自分に厳しくて周囲には気を遣い過ぎるところがある季代さんの場合、自他の様々なことがいい意味でどうでもよくなる年齢になったときに初めて人生の黄金期を迎える気がする。おそらく20年後ぐらいのことだろう。
「生産は野菜ごとに夫と分担していて、例えばGoldenGreenの看板商品であるトマトは私がすべてやっています。販売も含めた農園全体の運営も私が責任者です。パートさんが週3回、数時間だけ来てくれていますが、他の時間は基本的に一人での作業。だから、自分からどんどん社会性が失われていくのを感じます」
 一本気の季代さんには本当の意味での社会性は十分過ぎるほどあると僕は思う。でも、処世術のようなものは多様な人の中で揉まれてないと弱まっていくのかもしれない。対照的なのはやはり耕平さんだ。町役場を通じて多くの人たちに接しているため、ITコンサルティング会社で働いていた頃の如才なさを取り戻している気がする。

佐久穂町への恩返しと同時に「社会性」を取り戻すために地域ボランティア活動もしている季代さん。真面目だな……。佐久穂町のゆるキャラ「しらかばちゃん」を激しく応援しています。

運賃は上昇傾向。でも、もっとクオリティの高い野菜を送れなければ値上げはできません

 季代さんと耕平さんは今後の方向性に関して夫婦でアイディアを出し合っている。一致している前提は「農家でいたい」「佐久穂町で暮らし続けたい」の2点だ。
「畑をやりたいという移住者は多いので、私が管理人になって区画を貸し出す『畑オーナー制』は案の一つです。あとは、うちは看板商品であるトマトとトウモロコシの生産と販売だけに集中し、他の期間は私がよその農業法人で働くという案もあります」
 こういう説明は元コンサルタントの耕平さんが得意だろう。ル・カレで食事をした翌朝、在賀家のリビングで寛がせてもらいながら彼の話を聞いた。
 耕平さんによれば、GoldenGreenは営業面と生産面の両方で課題を抱えている。まずは営業面。東京を離れて10年以上が経つため、耕平さんと季代さんの人脈で都市部の顧客を開拓する機能が弱くなった。この点は前回の取材でも耕平さんが指摘していた。
 時間の経過とともに客の一部が入れ替わるのは仕方ない。しかし、最近は新規の顧客を獲得し切れていないようだ。その原因は生産面にもある、と耕平さんと季代さんは厳しく自己分析している。
「うちは同業他社に比べて技術の向上が遅いのです。かも(※季代さんのあだ名)も僕も野菜を作り込んでいくことが弱く、品質にばらつきが出てしまうこともあります。野菜を届けるための運賃は上がっていますが、もっとクオリティの高い野菜を安定的に送れなければ値上げはできません」

やたら賢くてかなり変人な耕平さん。合理的に論破されない限り自分の考えは曲げません。ガッツの塊である季代さんだから配偶者は務まるのだと僕は思っています。

10年来の顧客である僕からの提案。「野菜セット」ならぬ「佐久穂セット」はいかが?

 彼らの野菜を美味しく食べている僕からすると、ちょっと厳し過ぎる自己評価だと思う。耕平さんと季代さんが比較対象としているのはGoldenGreenの先輩農家である「のらくら農場」(佐久穂町)や全国的に有名な「久松農園」(茨城県土浦市)である。両者とも複数のスタッフを雇った中規模農家で、各種の野菜をそれぞれの担当者が「作り込む」ことができるだろう。有名な総料理長が率いる大きなレストランのようなものだ。
 一方のGoldenGreenは真面目な味と温かく細やかな接客を貫く家族経営の食堂のようだと僕は勝手に思っている。提供するものは超一流ではないかもしれない。それだけに「うちの料理は日本一」的な暑苦しさとは無縁だ。器用だけど飽きっぽいところがある耕平さんが、町役場や筋トレルーム経営などの異分野にときどき手を出している感じも僕好みである。
 そこで、顧客の僕から提案がある。既存の野菜セットに季代さんと耕平さんのセレクト品を加えた「佐久穂セット」もしくは「東信セット」を新たに売り出すことだ。
 ポイントは「長野県産」などという広すぎる概念ではなく、「佐久穂町産」など生活感のある地域に限定すること。そして、この町で暮らす二人が思いきりひいきして、本当に「いい!」と思うものだけを選んでコメント付きで送ってほしい。その地域は広くても東信エリアに限られるだろう。

薪ストーブの前での家族写真。愛犬ハルは大根やカブが大好物とのこと。草食男子ですね!

遠く離れた顧客。運送の数や頻度を増やすのではなく1回の量と密度を高めるという提案

 この記事の冒頭で季代さんのツイッターを紹介したが、その内容の中には「これは一度食べてみたい!」と思う料理や食材が多い。でも、年1回の佐久穂町訪問ではそれらを扱うお店にとても回り切れない。僕の傾向としてはむしろ同じ店に何度も足を運ぶことのほうを優先してしまう。多分、来年もル・カレに連れて行ってほしいと彼らにお願いする気がする。
 僕は季代さんと耕平さんの選択眼を信頼している。正直に言えば、二人が作る野菜以上に彼らのセンスを「買っている」のだ。そして、ヤマト運輸がガソリンを燃やして我が家に来てくれる機会をもっと活用して、彼らが選りすぐった日本酒など東信エリアの産品をいろいろ味わってみたい。1回1万円ぐらいのセットはどうだろうか。
 自信を持って送れる野菜が少ない時期は、その分だけ他社商品をセットに多く入れてくれればいい。個人的には二人が親しくしている人たちが作るパンとかジビエなどをこっそり入れてほしい。この「佐久穂セット」ならば、農閑期である冬場にも出荷ができる。このように感じるGoldenGreenファンは僕だけではないと思う。
 最後はお節介な提案までしてしまったが、10年も顧客を続けている間柄なので許してもらえるだろう。今後もGoldenGreenとは相互依存関係を楽しく続けていきたい。(了)

在賀邸の外観。佐久穂町でも辺鄙なところにある集落にあり、その中でも外れにあります。森の中の家ですね。

泊まらせてもらった翌日はハルの散歩に出かけるのが恒例。夢のように幸せな時間が流れます。

地域のお祭りで「しらかばちゃん」が躍動しています。あれ?季代さんはどこにいるんだろう。いずれにせよ、また遊びに伺います!

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