
写真:斬新なようで懐かしい柄。手染めの手ぬぐいを販売します。(ムラカミフウコさん提供)
無機質な台所に花が咲く。手ぬぐいの便利さと存在感
人からもらって嬉しいモノの一つが手ぬぐいだ。我が家の場合、手をぬぐう用途にはあまり使わず、まずは食器拭きとしてデビューさせる。使い古してくると台拭きにし、さらに汚れると雑巾に。手拭きに使っていたタオルが同じような経路をたどることもあるけれど、さっと洗って水気を切りやすくて小回りもきく手ぬぐいのほうが僕は好きだ。
いわゆる「ふきん」をドラッグストアなどでまとめ買いすることはある。でも、手ぬぐいを購入したことは一度もないと思う。記念品などでもらうことを期待しているからだろう。面白いデザインだったりすると無機質な台所が少し華やぐ。それもだんだんと色あせてきて、「このお店の〇周年手ぬぐいともそろそろお別れだな。というか、このお店はまだ続いているのかな」などと思ったりする。大量生産の市販品だったりするとこんな風には楽しめない。
洗い替えのローテーションで毎週のように台所で活躍し、それでいて消耗品として心置きなく捨てられる軽い存在。手ぬぐいが記念品として重宝される理由がわかる気がする。
愛知県蒲郡市のカフェにて。なぜかラグビー日本代表のジャージを着て来てくれました。ムラカミフウコさんは好奇心の塊みたいな面白い女性です。
江戸時代から続く「雪花絞り」。自宅で白生地を染めて日常使いをしている女性が登場
そんな手ぬぐいを自分で染めるのが趣味だという女性が僕も住んでいる愛知県三河地方にいる。2022年に関東から単身引っ越して来た会社員のムラカミフウコさん。反物を染めてメルカリで売ったこともあるというのでセミプロだ。ちなみに本業は繊維とは全く関係がない。
モノ作り全般が好きだというフウコさんが約10年前から取り組んでいるのは、数ある染め方の中でも「雪花絞り」と呼ばれる技法。生地を三角に折りたたみ、両端を板で締めて固定する。その底辺や角を染料に少し浸けてから広げると雪の結晶のような花模様になるのだ。手仕事なので染まり方はすべて異なり、一点ものの手ぬぐいができる。
ちなみに愛知県名古屋市には「有松・鳴海」という絞り染めの産地がある。雪花絞りはその多様な柄の一つだ。フウコさんもこの400年以上続く産地を訪ねたことがあり、今では同じ県内に住むようになった。雪花絞りの縁もあるのかもしれない。
反物で染めるとこんな感じ。仕立てればオリジナル柄の着物になります。(フウコさん提供)
1反で手ぬぐい10枚分以上。染めるのが面白くて毎月のように作っています
「染めるのが面白いので、月1回ぐらいは自宅で作っています。手ぬぐいだと1反で10枚以上もできちゃうので、一人暮らしでは使い切れません。てぬケット(手ぬぐい作家や手ぬぐいメーカーが集う即売会)だと、手ぬぐい1枚1000円ぐらいが相場でしょうか。私の雪花絞りが1000円で売れるかな……。800円ぐらいでも全然問題ありません」
欲のない話をするフウコさん。雪花絞りとの出会いは『金麦』のCMで檀れいが着た浴衣だった。その大きな柄に惹きつけられた。
「昭和初期までは赤ちゃんの布おむつの柄として知られていました。いかにも日本の柄なので気に入っています」
思い立ったら即実行のフウコさんはホームセンターで板を購入して自分で切って加工、板を絞めるのに使う万力も揃えて自宅で染め始めた。最初の頃は生地ごとの適切な染料がわからずに苦労したという。
「京都にいるプロの作家の方に問い合わせたことがあります。面識がまったくないにもかかわらず、基本を教えてくれました。業界では常識的な知識だったのだと思いますがありがたかったです。それ以降は安定的に作れるようになっています」
独学で試行錯誤したうえでプロの教えを乞う。すると、目の前がパッと開けるように劇的な改善を遂げることがある。真剣に取り組んでいる趣味だからこその喜びだと思う。
反物を染めるときは万力では幅が足りません。こうやって糸で縛ります。(フウコさん提供)
のれん、頬かむり、鉢巻き、ハンカチ……。手ぬぐいって万能!
東日本大震災のボランティアも継続的に続けているフウコさん。東北の仮設住宅で藍を育てている住民たちと生葉染めをしたり、雪花絞りを楽しんだりしたこともある。
「手ぬぐいを3つ並べてのれんにした人もいます。日差しやホコリを避けるための頬かむりにも、汗を防ぐための鉢巻きにもなる。手ぬぐいって本当に万能なんです」
フウコさん自身は半分に切った手ぬぐいをハンカチ代わりに使ったりする。新品の手ぬぐいをいきなり切っちゃうなんて大胆だけど、それをハンカチにするのは粋だな。確かに、手ぬぐい半分がちょうどいい大きさだ。
「もちろん、洗い古してもすぐに捨てたりはしません。台拭きにした後、ペットの世話用に使ったりします」
フウコさんによれば、手ぬぐいが切りっぱなしなのには意味がある。折って縫ってある布に比べて格段に乾きやすいだけでなく、ほつれた部分は手で取り除ける。
そして、手で縦に裂いて細長く使うこともできる。時代劇で女性の下駄の鼻緒をすげ替えてあげる、アレだ。現代社会でも布の紐が必要なシーンもあるはずだ。そんなときに手持ちの手ぬぐいをビリビリッと裂いて使ったらカッコいいな……。フウコさんのおかげで、手ぬぐいを持ち歩く習慣が身につく気がする。
縫い合わせれば、一枚の手ぬぐいからエコバックを作ることもできます。「あずま袋」というらしいです。(フウコさん提供)
10月22日(日)の小商い部フリマ@東京・中野ではムラカミフウコさんの雪花絞り手ぬぐいを30枚ほど出品予定。ぜひお越しください。詳細はこちら。(フウコさん提供)