2022/02/24 05:27

※この記事は、取材協力してくれた「ママ」たちへの報告用も兼ねて無料公開します。メンバー以外の方もお楽しみください。

写真:デルソーレ代表の上林恵さん。日中に伺い、「ハイボールがお好きでしょ」風に撮影させてもらいました。 

幼馴染から「銀座でママを始めた。遊びに来て」と言われたら

 女友だちから「銀座で働き始めた」と連絡を受けたら、「遊びに行くしかない」と心に決めるのではないだろうか。
 僕の場合は昨年の夏にその機会が訪れた。小学校から高校までずっと同級生で、母親同士も友人である櫻井涼さんが僕の住む愛知県蒲郡市までフラッとやって来て、僕たちの地元である東村山と銀座で「スナックのママ」をやっている話をしてくれたのだ。
 翌月、さっそく銀座のお店に行ってみた。複数のママが日替わりで立つ「シェアスナック」なのだという。
 昭和的なうす暗い飲食店を居抜きで使っているという予想に反し、スナックデルソーレGINZAは白色と金色を基調とした清潔感のある内装だった。昼間は太陽光がたくさん入る窓からは線路沿いの街と電車がよく見える。客席はカウンターを中心に10席ほどで、客同士も交流しやすい構造だ。これほど「よどみ」を感じさせない店も珍しい。
 当日は、とぼけたところがある櫻井さんのキャラクターもあって、妙な一体感があった。「卵かけご飯の専門店を開きたい」という一風変わった男性客のクラウドファンディングに応じた記憶がある。その専門店は訪れる前に閉店してしまったが、ちょっと軽々しいほどフットワークのいい大人が集まる場なのだと感じた。

取材で訪れたのはクリスマスシーズン。ドアの中は一切見えません。ドキドキ感が高まります。

週6で飲み歩いていた元リクルート社員。「銀座は馴染み深い街です」

 類は友を呼ぶのかもしれない。15年ほど前に料理研究家の友人から紹介されて一緒に食事をし、2年前に再会したばかりのたかはしあやこさんもデルソーレでママをしているとわかった。
 率直でオープンで美しいあやこさんが西麻布で間借りして開いている「スナック曲がり角」では、彼女の旦那さんたちと楽しく飲ませてもらったことがある。銀座でやっているというスナックにも訪れたいと思っていた。まさか櫻井さんと同じ店だったとは……。世の中は狭い。どちらとも気まずい関係ではなくて良かったとしみじみ思う。
 魅力的な女友だちを2人も惹きつけているお店の経営者に会ってみたいと思った。というか、シェアスナックって何? なぜ思いついて、どんな仕組みで運営しているのだろう。
「22歳から28歳までは週6で同僚と飲み歩いていました。仲良くなったスナックでは週3でアルバイトもしていましたし、銀座は馴染み深い街です」
 デルソーレのオーナーである上林恵さんは、気取らない口調で会社員時代のアフターファイブ生活を語ってくれる。大阪府出身で2009年に京都大学を卒業し、銀座のGINZA8ビル(通称G8)に本社があるリクルートスタッフィングに入社。仕事に熱中する一方で、夜は酒場でワイワイするのが大好きだったようだ。
「お酒も好きですが、いろいろな人と話すことが大好きです。初対面の人の仕事や趣味を聞いて、『何がきっかけで始めたんですか?』などと聞いていると、その人の内面や価値観がわかったりします。自分では考えもしなかったことだったりすると純粋に面白いです。その知識が何かに役立つとは全く考えません(笑)」

ドアを開けると意外なほど明るい店内。爽やかな色気を漂わせるママが待っています。

おめかしをして外出し、友人知人を招いてお酒を飲める「ハレの日」

 2018年に会社を辞めた上林さん。フリーランスのキャリアコンサルタントとして働きつつ、麻布十番のバーを金曜日の日中3時間だけ間借りして営業する「昼スナック」を友人と2人で始めた。デルソーレの原型である。
 現在、デルソーレには上林さんも含めて20名のママがいて、日替わりでお店に立っている。上林さんはやはり金曜だけの「出勤」だ。
「私は毎日同じことはできないけれど、週1なら心から楽しめます。週2以上だと営業(集客のための声かけ)をしなくちゃいけませんが、週に1回なら営業は必要ありません」
 上林さんは高校時代の同級生だという旦那さんとの間に5歳の息子くんがいる。つまり、2018年の時点ではすでに結婚して子育てに突入していたのだ。
 小さな我が子と向き合っている日常では化粧やお洒落をしている余裕はない。でも、月に1回ぐらいはおめかしをして外出し、友人知人を招いてお酒を飲める「ハレの日」を作りたい。だから、デルソーレの夜の部は「ハレノヒスナック」なのだ。なお、デルソーレはイタリア語で「太陽」を意味する。
「ママ自身が楽しい場であることが大事です。そうすればお客さんはついて来てくれます。ママになってもらうのは太陽のようなハッピーオーラがある人。まずは自分自身が満たされて生き生きしている人だけが周りを笑顔に満たせると思うからです」

昼からでもお酒を飲み、自転車で派手に転んで怪我をしても1日しか凹まない上林さん。豪快な人です。

完全紹介制のコミュニティ。だから、ママも客も安心して飲める

 デルソーレにはママも客も安心して飲める仕組みがある。完全紹介制でお店の場所は非公開。ホームページには「東京都中央区銀座7丁目コリドー街のどこか※ご来店時に招待者から住所をお伝えします」としか書かれていない。
 ちなみに、この記事を読んで「デルソーレに行ってみたい」という方は僕が紹介する。こちらの公式LINEに登録したうえで、「ウェブマガジン冬洋酒で見ました」とメッセージを送ってみてほしい。上林さんからの返信が届くはずだ。
 この店は価格も安心だ。銀座の高級クラブの中には「座っただけで5万円」という店もあるらしいが、デルソーレはチャージ3千円。酒に強くない僕の場合、ママにもご馳走しながらダラダラ飲んでも1万円程度で済んだ。
「確かにお酒は出していますが、うちは飲食店というよりもコミュニティだと思っています。入るきっかけはママであっても、『他のお客さんと話すのが楽しい』という声もよく聞きます」
 スタッフ同士が仲良くて、その店を客としても普通に利用するのが「いい店」の証だと僕は思う。「常連になりたい!」と思うのはそんな店ばかりな気がする。
 上林さんが厳選しているママたちは何かにつけてよく集まっているらしい。上林さんが立つ金曜日に飲みに行った際も、ママの一人である桑原あやこさんが女友だちを連れて遊びに来ていた。自然な歓迎ムードを醸し出してくれる人なので、まだ常連ではない僕も居心地よく過ごすことができた。

店内の壁にはお客さんやママたちの写真が飾ってありました。これぞスナック!

人が気軽にチャレンジできる場所。誰かの背中を押すような存在

 デルソーレの「シェア」の仕組みは明快だ。ママたちからは月額1万円の会費をもらい、それぞれの出勤日の売り上げに応じてその一部を還元している。
 ママたちとしてはお小遣い程度の稼ぎにしかならないだろう。しかし、友人知人を気軽に呼びやすい華やかな場所で「銀座のママ」ができるのは大きなメリットだ。出店リスクもない。やってみて、思った以上に楽しくて客も増えたら、今度こそ本格的に独立開業するという道もあり得る。
「人が気軽にチャレンジできるような場所にしたい、人の背中を押す存在でありたいといつも思っています」
 上林さんの本職はキャリア支援であり、デルソーレはその実践の場だという見方もできる。また、上林さん自身が「一人ではつまらない」と痛感した経験も現在の運営方法に影響している。
「会社を辞めてフリーランスになってから、自分で集客をしてキャリア関連のワークショップやコーチングを続けていました。でも、半年も経ったらネタが尽きて、代わり映えのしない内容に自分が飽きてしまったんです」
 究極の面倒臭がりで飽き性だと自覚している上林さん。キャリア支援でも「あえていろんな人と一緒に共同企画」をするようになった。価値観は似ていながらも能力や性格が異なる人が集まると、意外な展開や結果を享受できるからだ。

上林さんと僕のツーショットも飾ってもらっています。チーママ?の星華ちゃんが可愛い落書きをしてくれました。

自分が苦手なことを喜んでやってくれる人がいる。助け合える場を作りたい

「会社員のときのほうが一人で働いていた感覚があるぐらいです。周りはライバルだと思っていましたから。今は逆。経理など、私が苦手なことを喜んでやってくれる人がいるのだと知りました。いろいろな人に助けてもらって、応援し合えています」
 上林さんより10歳年上で、フリーランス歴は20年に及ぶ僕としては嫉妬すら覚える素晴らしいコメントである。若い頃の僕は「何でも一人でやっている。リスクも利益もすべて自分のもの」という意識が強かった。それでは限界があり、信頼できる人とはいろんなものを分け合ったほうが面白くなりやすいと気づいたのはここ数年のことだ。上林さんははるかに先を歩んでいる。
 いや、上林さんはライバルではない。やる気と勢いは異常にあるけれどちょっと抜けた感じのところは共感もできる。競うのではなく、ママたちの力も借りて一緒にできることが何かあるかもしれない。(了)

20人いるママたちは「ハッピーオーラ」が強い個性派揃いらしいです。この飲み会に混ざりたい…。(デルソーレ提供)

こちらもママだけの宴会。どんな話題でも盛り上がれそうな面々です。(デルソーレ提供)

帰りがけにお見送りしてもらいました。エレベーターを一緒に待っている時間も好きなんです。また遊びに伺いますね!

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