2025/03/14 19:00
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京塚 陽大(仮名)さんの場合

高校卒業までの暇つぶしと友達同士の軽いノリで
“闇バイト”に手を出してしまった京塚陽大さん(仮名)。

「ヤバい」と感じつつも、報復が怖くてやめるとは言えませんでした。
卒業前に逮捕、留置所から鑑別所へ、そして試験観察となる過程で、被害者がつらい思いをしていることに気づき、自ら弁償金を返しつづけていこうと決心します。

「応援してくれるまわりの人を失望させるわけにはいかない」と言う京塚さんに、逮捕される前後のこと、そしてこれからのことをお聞きしました。


友だちに誘われて始めた“闇バイト”
やめたくてもやめられない怖さがあった

●京塚

高校3年も年が明けて1月末ごろになると、大学を受験する人以外は自由登校になり、就職組の僕はなんとなくヒマを持て余していました。そんなときに友だちから誘われたんです。
「お金になるバイトがあるんだけど、一緒にやらない?」と。

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京塚さんはこれまで、夜遊びでハメをはずすことはあっても “非行に走る”ことはなかった。卒業後も、友だちの父親が経営する建設会社で働くことが決まっていた。

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僕を誘ってきた友だちは警察に捕まったこともある、ちょっと“悪いヤツ”でしたけれど、ほかの友だちも一緒にやると言う。
お金も入るし、卒業までの間、楽しければいいやという軽い気持ちでやることにしました。

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知らない人のキャッシュカードを渡され、それを使ってATMからお金を引き出すのが“仕事”だった。1回やれば、2〜4万円のお金になった。

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途中でおかしいなとは思いました。でも、もう「やめる」とは言えなかった。

だって、そのバイトをはじめる前に、身分証をコピーされているんです。何かあれば、誰かが家に来るかもしれないし、自分や友だちがボコボコにされるかもしれない。

途中で指示役が乱暴な話し方の人に代わったりもして、実際に何かされたわけではないけれど、怖くて「やめる」とは言えなかったですね。

僕たちは高校を卒業してそれぞれ働くので、指示役の人から「3月までには終わるから」と言い聞かされていました。

3月のある日、家にいた僕のところに警察がやってきて、僕は逮捕されました。

次の日は高校の卒業式でした。家にいた家族はとてもビックリしていました。

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京塚さんの逮捕前に、何人かの友人はすでに逮捕されていた。だから「そろそろ自分の番かもしれない」と覚悟はできていた。けれど、実際に捕まってみると、やはりそれはショッキングなできごとだった。


誰にも言えなかったことを話したとき
ちょっと気持ちが楽になっていた

●京塚

逮捕されて留置所に50日いました。

警察の方は怖くありませんでした。威圧的ではなく、どちらかと言うとこちらを諭す感じです。でも、最初のうちはごはんも食べられないし、寝られない。
「どうしてこんなことになっちゃったんだろう?」とばかり考えていました。

親が雇ってくれた弁護士さんといろいろな話をして、だんだんと「自分がしてしまったことは仕方ない。これからどうしようか」と考えられるようになっていきました。

留置所を出たあとは鑑別所です。

鑑別所では、裁判所から派遣された調査官が一人ひとりについて、面談をするんです。
調査官の方は心理学とかも学んでいるらしく、今まで育ってきた環境や過去にあったできごともいろいろ聞いてくるんですね。

僕はそのときはじめて、誰にも言ったことがなかった話をしました。

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京塚さんの父親は、京塚さんが幼いころ、よく暴力をふるった。
京塚さんは腕の骨を折ったこともあるし、アザだらけで学校に行ったこともあった。
中学生以降には殴られることはなくなったが、いつしか京塚さんにとって父親は恐怖の対象になっていた。

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●京塚

いまだに、父が大きな声を出すと、体がビクッとしたり、怒られてもいないのに涙が出たりしてしまいます。

結局、夜遊びをしていたのも、父と顔を合わせたくないからだったし、悪い友だちと仲良くしたのも、家庭環境が複雑な彼らとの間に仲間意識を感じたからでした。

今まで誰にも言えなかったようなことを細かく話したら、不思議なことにちょっと気持ちが楽になっていました。

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約1カ月鑑別所で過ごしたのちに裁判を受け、京塚さんは試験観察となった。


話したくないことを話せて楽になったから
今度は誰かの話を聞いて誰かに楽になってもらいたい

試験観察となり、鑑別所を出た京塚さんは、間を置かずNPO法人育て上げネットを訪れた。
鑑別所内で会った育て上げネットのスタッフ、阿部渉に再会するためだ。

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●阿部

京塚くんが僕に会いに来たとき、僕はびっくりしたんです。

鑑別所には、ここ5年間くらい、毎月、話をさせてもらいに行っています。
でも、出所後に僕に会いに来てくれる少年は、1年に1人いるかいないかくらい(笑)。

鑑別所の中では、少年の名前は教えてもらえないので、「京塚さん? 誰だっけ?」と思いました。

●京塚

地元の友だちからの紹介で罪を犯してしまったので、これまでの友だちづきあいを完全に断たなければダメだと思いました。

もともと自分は人に流されやすいタイプなので……。

就職先も友だちの親が経営する会社だったのでやめました。

もう自分には何もない状態で、ゼロからこれからのことを考えたいと思って、阿部さんに相談したかったんです。

それまで、自分のことを人に相談することはなくて、「相談したって決めるのは自分だし」と思っていました。「相談したって何も変わるわけがない」と思い込んでいたんです。

でも、鑑別所で調査官の方に面談をしてもらって、すごく楽になった経験があったから、今度は逆に「誰かの話を聞かせてもらって、誰かを楽にしてあげたい」とも思いました。
阿部さんは支援の仕事をされているので、余計に阿部さんの話を聞きたいなとも思いました。

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京塚さんは、育て上げネットでボランティアをしながら、生活環境を整え、これからのことを考えていくことになり、定期的に育て上げネットに通うことになった。
そして、半年以上が経った。

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●京塚

昨年末に試験観察期間がやっと終わって、今はアルバイトをしています。

朝が苦手で、夜の仕事のほうが良かったため、居酒屋さんでの仕事です。

●阿部

夜の仕事なので、いろいろな誘惑があるかもしれないという不安はありましたが、ウチの活動をよく知ってくださっている店長さんに、しっかりと彼の背景も伝えてありますし、ボランティア活動などでの京塚くんのふるまいを見て、大丈夫だろうと考えて送り出しました。

逮捕後に出会ったのは今までの世界とちがう人たち
応援してくれる人たちは失望させたくない

●京塚

僕がやってしまった犯罪のせいで、どんな人が被害にあってしまったのか、最初のうちはわかりませんでした。

でも、弁護士さんが被害者の方と連絡を取り、いろいろと話をしてくれてからは、罪の意識を感じています。

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少しずつ貯め続けていた貯金を根こそぎ奪われた人、家族の方に「なんでこんなのに騙されたのか、バカじゃないのか」と責められつらい思いをしている人。
自分の被害者ではないが同じような詐欺に遭い、自分を責めて自殺した人の話も聞いた。

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●京塚

弁護士費用も含めて弁償金の500万円を親から借りているので、アルバイトをして返していきたいと思っています。

逮捕されてから、警察の方、弁護士さん、鑑別所の方、裁判所の調査官の方、そして、阿部さん含め育て上げネットの方……僕にしっかり向き合おうとしてくれる方がたくさんいて、その期待には背けないと思うようになりました。
自分を応援してくれる人たちを失望させるわけにはいかない。だから、僕自身が、変わったことを見せていかなければいけないと思うんです。

今までは「自分と何人かの友だちさえがよければそれでいい」という感覚でした。同じような人たちがいるすごく狭い世界にいたんだと思います。

でも、逮捕されてからは、今まで会ったことのないようなタイプの人たちにたくさん出会えた。
話したことのないタイプの人たちと話ができた。そこからいろいろなことを考えることができるようになりましたね。


やってしまったことは仕方ないから
被害者を増やす前に警察に出頭してほしい

京塚さんは、他人のキャッシュカードを使って、計5回、お金を引き出した。逮捕され起訴されたのはそのうち3件。家庭裁判所に送致されていない案件が残っている。

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●京塚

残りの裁判がいつあるかまだわかりません。これまでの決定が覆ることはないらしいですが、少年院に行く可能性もゼロじゃない。

とにかく今は、アルバイトをしながら、弁償金を返していくしかない。

それを返し終わったら、支援の仕事をするために大学へ行こうかと考えています。

人と関わるのが好きなので居酒屋のバイトも楽しくて、飲食関連の仕事もおもしろそうだなとも思います。将来のことはゆっくり考えていきます。

●阿部

京塚くんはコミュニケーション能力も高いし、働き者。今は、存分に彼らしさを発揮して、お金を返していくことができればいいなと思っています。

ただ、鑑別所を出たあと再会したときに、「支援者になりたい」と聞いた手前、そこの部分に関しては、ずっと応援していきたいと思っています。
おそらく「人のために何かしてあげたい」というのは、彼のなかにある素直で素敵な部分だと思うので、なおのこと応援したいなと思っています。

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「もし、今、闇バイトをしている若者がいたら、何か言いたいことはあるか?」
京塚さんに聞いてみた。

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●京塚

とにかく取り返しがつかなくなる前にやめたほうがいいと思う。警察の人たちは怖くなかったし、暴力から守ってくれる制度があるとも聞きました。

それに、今は実感がないかもしれないけれど、被害者の人が実際にいて、自分がしたことで苦しんでいる。
やってしまったことは仕方ないから、被害を増やす前に、早く警察に出頭してほしいと思います。


■本記事について

本記事は、首都圏若者サポートネットワーク「若者おうえん基金」による助成金を活用させていただきました。作中に出てくる人物の性別、氏名等の個人情報や状況は、本人特定を避けるため変更している場合があります。



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