「学校」の働き方改善が急務




皆さんは日本の学校の先生方の忙しさについてご存知ですか?
連合総研調査によると、過労死ラインを超える月100時間以上の時間外労働を行っている教員は、小学校で55.1%、中学校で79.8%、高校で46.4%となっています。

日本国内の他業種との比較を見ても、学校の先生の忙しさは異常な状況にあると言えます。以下のグラフは教員、医師、建設業、サービス業などと比較したグラフですが、日本の学校の先生は突出した労働時間となっています。




政府が進める「働き方改革」においては、残業時間の上限を「年間720時間以内」「月100時間未満」などとすることが決まりましたが、公立学校の教員はこの上限規制の対象から外れています。また、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(いわゆる給特法)によって教員の残業は残業として見なされておらず、実に9割の教員が出退勤時刻が管理されていないということも長時間労働が慢性化してしまっている原因に挙げられるでしょう。


先日、中学校教員をしている友人がFacebookにこのように書いていました。


「先月の残業時間は110時間だった。今日は17時間労働だった。なんかもうなんのために働いているのかわからないし、生きるために働いているのに、働くために生きてる状態になってる。教師って仕事はとても素敵だと思うけど、こんな生活ずっと続くなら、もう辞めたい。」





彼は学生時代からとても熱心に学び教職大学院も出た優秀な人ですが、今、彼と同じような境遇にいる教員は全国にたくさんいて、多くの先生方がぎりぎりの淵に立っています。この問題は働き方の工夫をすればなんとなかる、といったような「個人の努力次第でなんとかなる」問題ではありません。長時間労働が慢性化している学校に配属されてしまった場合、誰もが長時間労働に絡めとられてしまいます。ましてや責任感のある人であれば、尚更に職場の業務を率先して行い、結果「過労死ライン」をゆうに超えているということが多々あります。




これは首都圏のとある小学校の先生の1週間です。あまり知られていないことですが、自治体によっては小学校でも部活動があり、土日も練習や引率によって潰れることがあります。また、ご覧いただける通り、非常に多岐に渡る業務内容の中で長時間労働が慢性化しています。教員の業務は、授業以外にも、保護者対応、部活動指導、成績処理、職員会議、生徒指導、委員会、行事説明会、事務処理、地域の行事への出席などの仕事があります。中学校の先生は、さらに放課後にほぼ毎日部活動指導があります。

児童生徒の実情や地域の特性によって差はあるものの、今、日本の学校の先生は世界的に見ても、また日本国内の他業種との比較で見ても、適切な働き方になっていないことは明らかだと思います。以下は、一週間あたりの教員の勤務時間の国際比較になります。勤務時間の合計は34の調査参加国の中で断トツの1位。特に、課外活動(部活動)と事務業務によって日本の学校の先生たちが忙しくなっているということが見て取れます。




これらの問題に対し、文部科学省でも年内にも教員の働き方改革の緊急対策をまとめる予定で、それに先立って各地の都道府県、市町村教育委員会においても、教員の多忙化解消プラン等を策定するなどの動きがあります。また、教職員の時間外労働にも上限規制を設けるための大規模な署名運動も展開されています。



今ようやく、政府、文科省、教育委員会、組合、等、それぞれが問題意識を持ち、教職員の長時間労働の問題解決に向け動き出しています。メディアによる報道も増え、世論も徐々に「学校の先生は忙し過ぎる」ということを認識し始めてきているように思います。
 
ただその一方で、法改正にはまだもう少し時間がかかること、そして法改正が進んだとしても、実際に目の前にある膨大な「業務」をなんとかしていかないことには、根本的な解決にはなかなか繋がらない、ということも言えるかと思います。法律や条例が変わっても、長年積み上げてきた学校文化、そして現場の業務量はすぐには変わりません。


「学校働き方研究所」を設立し、教職員の長時間労働の問題解決に向け、3つのことを行います。



教員の時間外労働の上限規制の設置等、法律や条例の改正を待ちつつ(または署名運動に参加し後押ししつつ)も、長時間労働の中にいる目の前の先生方の労働環境をよりよくしていくことは急務だと考えます。そこで私たちは「学校働き方研究所」を設立し、この問題に組織的かつ継続的に取り組んでいこうと考えています。具体的な方法は以下の3つです。






1.現場の教職員と、教職員の労働環境に関わる人たち(教育長・教育委員・教育委員会事務局・地方議員等)がフラットに語り合える場(フォーラム・勉強会等)を主催する。

学校現場で出来ることと同時に、学校と教育委員会、あるいは地域などが連携することによってできることもあります。こういった関係機関の連携の鍵は、それぞれの機関の中にいる「人」と「人」との対話だと私たちは考えています。これまで、福岡県春日市教育委員会の事例等、いくつかの成功事例を調査して分かったことは、うまくいったケースにおいては、異なる立場の人たちが、お互いの置かれている状況を知り、対話の中で最適解を模索するような関係が築かれていたということです。私たち学校働き方研究所は、こういった関係性が醸成されるような場作りのために、各地でフォーラムや勉強会などを企画し、情報共有と同時に人と人とのネットワークの構築に寄与していきたいと考えています。






第一回は2017年7月30日(日)に、「学校働き方改革フォーラム2017」として、東京の国立オリンピックセンターで開催します。本フォーラムの申込者は全国各地から100名を超え、学校管理職、主幹教諭等ミドルリーダー層、学校事務職員、スクールソーシャルワーカー、若手教員、教員志望の学生、教育委員会事務局(指導主事等)、市区町村議会議員、教育系出版社、メディア関係者等、多様な方々にお申し込みいただいております。

なお、第二回は2017年秋〜冬に、大阪で開催予定で、今後、全国各地で同様のフォーラムを開催することで、「学校の働き方をよりよくしていこう」という気運を高め、自治体や立場を超えて情報交換や対話を重ね、現場の最適解を模索していけるような機会を作り続けていきます。


2.いち早く教員の労働環境を改善しつつある自治体や学校の事例を集め発信することで、「それ、うちの学校もやろう」という動きを作る。






全国には教員の長時間労働の問題に対し、一定の成果をあげている自治体や学校があります。こういったところでは、従来の業務を見直し、より効率の良い方法を採用したり、長年の慣習によって行われた行事等を思い切ってやめたりするなどして、業務のスリム化と働き方改善に成功しています。これらの事例を集め発信することによって、業務改善を進めようとしている教育委員会や学校を支援していきます。(現在、ほとんどの都道府県で、「学校の業務改善事例集」というものがwebでも参照することができます。これらをより現場で使い勝手の良いものにしていくこと、及びこういった情報があるということの発信をしていきます。)また、ここに集まった事例や知見については、教育委員会等に積極的に提供していきたいと考えています。


3.管理職及びこれからの現場の中核を担うミドルリーダーに「業務改善」の視点とノウハウを提供する。

現場の先生方は、授業以外にも非常に多岐に渡る仕事を持たれていますが、教頭・副校長や、「ミドルリーダー」と呼ばれる主幹教諭(教務主任・首席教諭・指導教諭等)の先生方は、ご自身の業務を抱えているのと同時に、学校全体を動かしていくマネジメントの仕事も求められています。マネジメントの仕事の中には「業務改善」も含まれていますが、管理職やミドルリーダーの方々に業務改善の方法について学べるような研修があるかと言えば、まだ十分だとは言えないでしょう。また、企業とは違い、非営利組織である学校は「子どものため」という言葉によって、業務を増やそうと思えば際限なく増やせてしまいます。そうならないようにするために、校内研修や職員会議において、先生方が簡単に実施できる業務改善研修を開発し提供します。


ご支援いただいた資金の使い道


今回支援いただいた資金については、

①学校働き方改革フォーラムの企画と運営
②学校の業務改善・働き方改革に特化したwebサイトの制作
③学校の先生が業務改善研修を校内で実施できるような研修の開発

に使わせていただきます。


私たちは、日本の学校現場において、先生方が今より健全にいきいきと働いていただけるような労働環境に近づけていくべく支援を、継続的・組織的に行っていくために「学校働き方研究所」を設立します。 皆様のご支援のほど、何卒よろしくお願い致します。






最後になりますが、なぜ私がこの問題に取り組むのか、について少しだけ書かせてください。


私は2015年4月から1年間、大阪市の公立小学校に「教頭の校務に関する業務を行う非常勤嘱託職員」として勤務しました。教頭が煩雑な仕事に時間を奪われるのではなく、本来やるべき業務(学校全体の運営、教職員への助言や支援、若手教員の育成、地域との連携作り等)に集中できるようにするための補助的な仕事をさせていただきました。


学校にかかってくる電話や来客のインターホンはなるべく一番に出るようにし、特別支援学級の支援員さんが手薄な時は補助で入り、図書ボランティアさんや支援員さんを勤怠の管理の書類を作成したり、教育委員会や文科省から来る調査書類を作成したりしました。特に書類においては、1年間の校務で、計2107の電子文書を受け取り、逓送便という郵送で送られてくる文書を合わせると、1年間で約3000もの文書を受け取り処理しました。こういった仕事を通して、教頭の負担を少しは軽くできたかな、という実感はありましたが、『根本的にそもそもの業務を減らす』ということはほとんどできませんでした。


(大阪市において1年間で教頭が処理しなければならない文書の量 ※2015年度)


私の母と同い年だった女性の教頭先生は、子ども達が大好きで、学校が大好きな素晴らしい方でした。また教頭先生にも私と同い年の息子さんがいたことで、「おかんと息子」のようなとても良い関係で1年間お仕事をさせていただきました。ただ、病気を患われていた教頭先生は、翌年、定年を前にしてご退職されました。

全国には、業務過多によって早期退職を選択される管理職の先生も少なくありません。特に首都圏や大阪にいたっては、管理職のなり手が激減しているという現状も見逃せません。

私自身、お世話になった教頭先生のために何かできることはもうありませんが、全国の先生方の業務が少しでも軽くなり、結果として今より子どもたちに向き合えたり、学校で楽しく生き生きと働く先生を増やしたい、と考えています。皆様のご支援のほど、何卒よろしくお願い致します。




 


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応援メッセージをいただきました!(五十音順)

◯ 内田 良 さん
名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授





ついに、先生たちの長時間労働に専門的に取り組むプロジェクトが誕生!
いま、この流れに乗って「教員の働き方改革」を盛り上げ,実現させなければなりません。
この機を逃したら、もうマスコミも市民も振り向いてくれないでしょう。
これから30年、職員室はいまよりももっと過酷な時代を迎えることになります。
さあ、改革をよりいっそう進めていくために、みんなで手を取り合っていきましょう!

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◯ 妹尾 昌俊さん

教育研究家
文部科学省 学校業務改善アドバイザー
中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員



今日のこの瞬間も、日本中に、子どもたちのために一生懸命がんばっている先生たちがいる。
それはとても有難いことだけれど、過労死や過労自殺もあとを絶たない。
授業準備や自己研鑽に時間がとれないでいる人も多い。特効薬はない世界。
学校も、国や教育委員会も、保護者も、外部の支援者も、皆で知恵を出し、協力しながら実行していくことが必要だ。

「学校働き方研究所」は、そこを大きく前進させようとしている。
資金を出す、足を運んでみる、現場の声を届ける、知恵・アイデアで貢献する。どんなかたちでも歓迎だ。
学校教育に今必要なのは評論家でも、傍観者でもない。理解者、支援者、実践者だ。
先生たちのためにも、子どもたちのためにも、あなたも少し本気で学校に関わりはじめてみないか!?

  • 2017/10/24 12:15

    学校働き方改革フォーラムの第二回の詳細が決まりました!ご支援いただきましたパトロンの皆様もぜひお越しください。 第二回の今回は、「現場から考えるこれからの学校改革」と題し、学校現場から進める働き方改革について皆さんと共に考えるフォーラムにしていきたいと考えています。 ぜひ、お越しください。...

  • 2017/09/19 16:54

    7月30日に開催致しました「学校働き方改革フォーラム」はおかげさまで100名を超える方々にご参加いただくことができました。学校の先生方以外にも、教育委員会の方々や民間の方、学生の方々など幅広い方にご参加いただき、「教員の多忙化」の問題に関して多様な意見交換を行うことができ、またゲストから先駆的...

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