2018/01/30 20:56

大手仮想通貨取引所が、外部から不正なアクセスを受け、顧客から預かっていた仮想通貨が流出したという話題が騒がれています。
そのような外部からの不正アクセス等により仮想通貨が流出したケースについて所得税法上の取扱いについてご紹介します。

なお、本稿の意見にわたる部分は、私見であることをお断りします。今後、新たな情報を入手次第、ホームページにて情報の更新を行っていきます。(https://www.aerial-p.com/media)

所得税法上の取扱い

外部からの不正アクセス等により仮想通貨が流出したケースにおいて所得税法上の取扱いは以下の2つの方法が考えられます。

雑損控除を適用

所得税法上、災害又は盗難若しくは横領によって、資産について損害を受けた場合等には、一定の金額の所得控除(雑損控除)を受けられる可能性があります。

雑所得上の必要経費に算入

雑損控除の対象となる資産のうち、雑所得を生ずべき業務(事業を除きます。)の用に供され又はこれらの所得の起因となる資産については、雑損控除の適用に代えて、損失の金額の全てを、その所得の金額の計算上必要経費に算入しているときは、これを認めるものとされています。

雑損控除・雑所得上の必要経費として認識するための要件

それでは、仮想通貨取引所に預けていた仮想通貨が、外部からの不正アクセスにより、流出した場合、雑損控除の対象になるのでしょうか?
結論から申し上げると、現時点において確定的な答えは出ておりません。
雑損控除を適用するためには様々な要件が必要となってきます。
個々の要件全ては、国税庁HPに記載があり、この記事では割愛させていただきます。

生活に通常必要でない資産

その要件の中で今回のケースで論点となるものが、「生活に通常必要でない資産」に該当するか否かになります。生活に通常必要でない資産となった場合には雑損控除の適用は受けられません。
「生活に通常必要でない資産」は射こう的行為(ギャンブル等)の手段となる動産が該当することとなっており、仮想通貨が射こう的行為の手段と判断された場合には雑損控除の対象外となってしまいます。過去の裁判例において、仮想通貨自体の判例はまだありませんが、①性質、②保有目的及び③保有・使用状況等を総合勘案すべきであると判示されています。そのため、仮想通貨が『通貨』としての機能(決済手段等)として使用されていることが総合的に認められると、雑損控除を受けられる可能性は高くなります。

損害の原因

雑損控除の適用対象となるには、その発生した損害の原因が限定されています。
例えば、詐欺や恐喝により損害が発生した場合には、雑損控除の対象とはなりません。
それでは、外部からの不正アクセスにより預けていた仮想通貨が流出した場合は、雑損控除を適用できる要件に該当するのでしょうか?
こちらについても、現時点において確定的な判断は出ておりませんが、他者に預けていたものでも、外部からの不正アクセスにより流出した場合は「盗難」に該当する可能性が高いと考えられます。その場合には「雑損控除」の適用対象となることが考えられます。

控除金額

今回のようなケースで雑損控除または雑所得上の必要経費として認識できるとした場合、控除金額はいくらになるのでしょうか?

①雑損控除の場合
雑損控除として申請することができる金額は以下の通りとなります。
(差引損失額)-(総所得金額等)×10%
※差引損失額は「損害金額-補てんされる金額」で算定されます。
※損害金額とは、損害を受けた時の直前におけるその資産の時価を基にして計算した損害の額です。そのため、仮想通貨が流出したケースについては、流出時点の仮想通貨の時価が損害額となります。
※損失額が大きく、その年の所得金額から控除しきれない場合は、翌年以降3年間を限度に繰り越して、各年の所得金額から控除することができます。なお、雑損控除は他の所得控除よりも先に控除することになっています。

②雑所得上の必要経費に算入する場合
雑損控除の適用に代えて、損失の金額の全てを必要経費に算入する場合には、損失額は「損害金額-補てんされる金額」となることが考えられます。

それでは、雑損控除と必要経費どちらを適用したほうがいいのでしょうか?
こちらについては、各人の所得の状況等により一概にどちらが有利かと言うことはできません。税理士や税務署に聞くことをおすすめします。

損失が補填された場合

控除金額②に記載したように、損失額は「損害金額-補てんされる金額」となることから、損失の全額が補填された場合については、所得計算上、損失はなかったこととなり、仮想通貨が失われた時点の時価で利益確定をしたと考えられる可能性があります。こちらについても確定している事項ではないですが、納税義務が発生してしまう可能性があるため今後の国税庁の動きなどにも注視していきたいですね。

最後に

仮想通貨が流出したケースについての所得税法上の取扱いは、現時点において確定的な判断は難しい状況です。
そのため、確定申告にあたり、仮想通貨が流出したケースについては、税理士、税務署又は税務当局にご相談されることをおすすめします。